MINARI COFFEEさんでの取材中にお客さんとして来た方が新亀家の店主さんとのことでご紹介をいただいた。
素晴らしい笑顔で「お待ちしております!」と言って店を後にしていった。
ハツラツな方だった。
まさか、初めての取材でこのような出会いがあるとは思わず大変喜ばしい。
正しくこの地、岩手で生きるということだ。
到着-15:00 仕込み
口約束だったので大丈夫か?と心配だったがお母様もご一緒で挨拶をすると笑顔で迎えていただいた。
さっそく焼き鳥の仕込みをしているとのことでお邪魔させていただいた。

本来は日本料理屋で、曾祖父の代から川魚を中心に、うなぎや鯉こく、鮎料理を提供してきたという。約90年にわたり暖簾を守り続けてきたお店だ。
店主さんは、この店を継いだ理由について「小さい頃から『継ぐんだぞ』と言われ続けていたので、半分洗脳みたいなものですよ」と笑いながら話してくださった。
もちろん冗談交じりの言葉だが、その表情からは家業を重荷として背負っている様子は感じられない。
「今は楽しくやっています。」
そう話す店主さんだが、家業を継ぐまでは一切うなぎに触れたことがなく、「じいちゃんが生きている間にもっと聞いておけばよかった」と振り返る。それでも本やYouTubeを頼りに試行錯誤を重ね、今では自らうなぎをさばき、焼き上げている。
基本となるレシピは受け継いでいるものの、祖父とまったく同じ味ではないかもしれない。それでも、ご自身が信じる「美味しい」を追い求め、手羽先の部分をタレの出汁として活用するなど、日々工夫を重ねている姿が印象的だった。
では、なぜ日本料理屋で焼き鳥を始めたのだろうか。
きっかけは一年前の夏頃。まかないとして作った焼き鳥をInstagramに投稿したところ、「食べてみたい」「作ってほしい」という声が寄せられ、予約限定のメニューとして提供を始めたという。
取材当日も臨時休業だったが、焼き鳥の予約が入ったため店を開けていると嬉しそうに話してくださった。
「この焼き鳥をきっかけに親しみを持ってもらい、うなぎも食べに来てもらえたら嬉しい。」
その言葉には、長く受け継がれてきた日本料理屋を大切に守りながらも、新しいきっかけをつくろうとする店主さんの想いが感じられた。
私自身、「日本料理屋」と聞くと、どこか敷居が高く、ラフな格好で入っていいのだろうか、何を注文すればいいのだろうかと身構えてしまうことがある。しかし、この話を聞いているうちに、そんなことは気にせず、まずは気軽に足を運んでみればいいのだと思えた。





以前は湯がいてから焼いていたつくねだが今は湯がかずにそのまま焼くことで肉本来のうまみを引き出している。
鰻も焼き鳥も日頃からもっと美味しくなるにはどうするのか?と工夫している。
お母さまもとても話好きな方で、このあたりの観光スポットや新しくできたお店、さらにはTV番組でお店の目の前をある俳優が通ったが全く気づかなかったことまで、たくさんのお話を聞かせてくださった。
また、三重県には相可高校という高校生レストランがある学校があるのだがそこに入学させようと考えていたここともあったらしく、妙に親近感がわいた。
ツッコミも鋭く、初対面でまだ一時間も経っていないというのに、まるで以前から知っているかのように接してくださる。その温かい雰囲気が、このお店の居心地の良さをつくっているのだと感じた。
そんな会話の中で、漫画家・さいとうたかを先生も新亀屋さんのうなぎを好んで食べていたことを教えていただいた。「ただいま、帰ってきたよ」と声をかけられると、ご自宅までうなぎを届けに行っていたという。
「もう届けに行けなくなっちゃったからね。」
そう少し寂しそうに話す姿からは、長年お客さんと築いてきた関係の深さが伝わってきた。


17:00 焼き
いよいよ焼きの時間。
そして炭火の前に立って気付く。
夏の暑さに加え、炭から立ち上る熱気が想像以上だ。数分立っているだけでも汗が噴き出す。
煙も目に沁みこの過酷な中で一本一本丁寧に焼き上げていく姿はかっこいい。




タレにつけて焼き、それを三度繰り返すことで艶やかな照りが生まれるという。
焼き上がれば次の串を並べ、頃合いを見ては裏返す。


そこへ先ほどのお客さんが再び来店し、「うまっそ~」と言って新たに焼き鳥を注文する。
「予約分が先だから、またあとで取りに来てね」
そんな何気ないやり取りにも笑顔が絶えず、穏やかな時間が流れていた。
店主さんとお客さんが自然に笑い合う姿は、まるで友人同士のようだった。
しばらくすると、地元農家さんの野菜を移動販売している方がヤングコーンとスイートコーンを届けに来る。
採れたての野菜なのでしっかり火を通さずとも柔らかく食べられるとのこと。
その場で受け取った野菜を炭火で焼き始める店主さん。

次々と知り合いが訪れ、少し話をして帰っていく。
お客さんというより、ご近所さんがふらっと立ち寄るような空気だった。
人が人をつなぎ、食材が店へ届き、それがまた誰かの食卓へと運ばれていく。
ほんの数時間の滞在だが、この町で生きる人とのつながりを垣間見た気がした。

18:00頃
しばらくすると、MINARI COFFEEさんが予約していた焼き鳥を受け取りにやって来た。
朝は私がMINARI COFFEEさんで取材をしていた。そして夕方には、その店主さんが新亀家さんへ焼き鳥を受け取りに来る。
それぞれのお店が当たり前のようにつながっている光景は、この地域で暮らす人たちの日常そのものだった。
MINARI COFFEEさんが帰られるのと同時に、この日の取材も終了。
帰り際、お土産に焼き鳥と焼きたてのヤングコーンをいただいた。
一日歩き回った体に、炭火の香りをまとった熱々の料理の美味しさは、この一日の締めくくりにぴったりだった。

